人工呼吸器シンポジウムを開催して

SSKA頸損 No.129より

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報告:人工呼吸器シンポジウムを開催して

兵庫頸髄損傷者連絡会 米田進一

1.はじめに

 去る11月2日に神戸市勤労会館にて、「人工呼吸器を使用して自由に生きるために」-人工呼吸器ユーザーが求めること、支援者に求められること-というタイトルの下、各地方に住む人工呼吸器(以下、呼吸器)ユーザーが集まりシンポジウムが行われました。前回2007年に兵庫で開催された「市民公開講座」から12年が経ち、私自身12年前と比較し、生活の変化や、現在どのような活動をしているのか、今抱えている問題や課題を解決するにはどうしたらよいのかを報告し、支援者とともに考えました。シンポジウム第1部の様子を報告致します。

2.概要

日時:11月2日(土)第1部10:00~12:10
         第2部13:30~16:30
会場:神戸市勤労会館大ホール7F

 全国で呼吸器を使って在宅で暮らす頸髄損傷者をはじめとする肢体不自由者に幅広く呼びかけ、実際にどのような暮らしをしているのか、自己実現していること、自身が生活する上で問題となること、どのように暮らし、どのような支援があれば自由な意思を守ることができるのかを聞き、課題解決のために求める要望を一緒になって考え学びます。

3.当事者の一員として

 前回から振り返ると、当時は外出する意欲が無かったので、社会参加ができるとは思っていませんでした。というのも、呼吸器を付けて外出すると危ないという恐れや、人に見られる事自体が嫌だったので、余程の理由が無い限り外出する事を避けていました。しかし、数名の呼吸器ユーザーが集まり社会参加をしていることを知った影響から、自分は遅れている存在だと認識しました。当時会員だった呼吸器ユーザーから「社会参加するべきだ」と背中を押された事から、自分も積極的に出て行こうと思い始めました。同年の暮れ、同じ会の先輩から「大分旅行に行かないか?」と誘われ、「介助者は学生4名が付くので、私達もサポートするから心配ないよ」と言われていましたが、初めての旅行ですから大いに不安が有り、遠方に行けるとは到底思えませんでした。無事に一泊二日の旅行を終え、翌年は全国総会・大阪大会に出席しました。大会では呼吸器ユーザーが司会やパネリストを行い、海外から横隔膜ペーサーを付けたユーザーをゲストに招き、呼吸器ユーザーの存在を広く世間に知ってもらえる場となりました。私自身もパネリストをする事で1年前よりは少し成長したと思います。海外からゲストを招いたことにより、いつか飛行機に乗りたいという思いが芽生えましたが、実現には至りませんでした。

 その後、様々な行事にも参加するようになり、地方の呼吸器ユーザーと交流も出来、多くの呼吸器ユーザーと繋がることが出来ました。

 旅行に関しては制約もあり、呼吸器ユーザーならではの問題も多くあります。遠方への移動に問題なのはバッテリーの持続時間です。飛行機を利用するには医師の診断書が必要となります。機械によっては気圧に耐えられないものや、機内に持ち込む事の出来ないバッテリーも多く搭乗が出来ません。

 長時間の移動の場合は、バッテリーの持続時間を逆算して予備のバッテリーを持っていかなければならず、人によっては吸引器も持ち込む必要もあり、荷物が多くなります。呼吸器ユーザーの旅行の準備が大変な事は、あまり知られていないのが現状です。

 それでも10年越しに海外旅行まで実現出来たのは私なりに大きな進歩だと思っています。

 生活面では、重度訪問介護サービスを利用しながら家族と同居しています。私が住む地域では24時間利用出来る環境では無い為、納得のいく支援は受けられていません。今抱えている課題の一つに、支援者の確保が難しいことがあります。呼吸器を使用しているということが、大きな責任がかかってくると捉えられ、サービス利用を敬遠されがちになります。私が目標としているのは、自立生活です。未だに実現出来ていません。私がこれから先、自己実現を果たしていく為には、多くの支援を必要とします。全呼吸器ユーザーが自分らしく生きていく為には、障害に対して理解を深め、意思決定の自立に多くの支援が必要だということです。誰もが安心して暮らせる社会にするため、共に支えて頂ければ幸いです。

4.土岐先生(ドクター)の報告

 私の主治医でもある土岐明子先生は、私が入院した時に気管切開から離脱させてくださった恩人です。日本での人工呼吸器における非侵襲的陽圧換気療法(以下、NPPV療法)の先駆者です。私を含む今回のパネリストである3名が先生の患者です。先生からは、どのような損傷レベルで呼吸器ユーザーとなるのか、排痰の方法や舌咽頭呼吸についてのお話がありました。医師になって、現在の呼吸器ユーザーに気管切開離脱を促す理由も話してくださいました。

 NPPV療法とは「Noninvasive   PositivePressureVentilation)の略です。慢性呼吸不全患者のうち、低酸素血症に加えて慢性的に二酸化炭素の蓄積を伴ったⅡ型呼吸不全には、継続的な補助換気(人工呼吸療法)が必要となる場合があります。NPPV療法は、気管切開することなくマスクやマウスピースを介して換気を行う治療法で、1998年に在宅における健康保険が適用となりました。患者さんにやさしい人工呼吸療法として、NPPV療法は注目されています。(TEIJINMEDICALWEBページから引用)日本では先生を含め2名のドクターがNPPV療法を先駆的に実践されています。気管切開から離脱をして、マウスピースや鼻マスクを用いた呼吸療法にすることで、痰吸引のリスクが大幅に軽減されます。先進国である海外では30年程前から取り組まれている呼吸療法ですが、日本ではまだまだ知られておらず必要性も理解されていません。現状では呼吸系に疾患のある患者の大半は、気管切開による呼吸管理になるという事でした。気管切開で在宅生活に戻るということは、痰吸引というリスクの高い医療的ケアを一生続けることになります。

 気管切開をする事によって声が出なくなるかもしれないという不安と、誤嚥による肺炎のリスクもある為、出来れば気管切開をしたくないのが本音です。私の様に気管切開以外の選択肢が提示されたことは稀だったように思います。現在はNPPV療法による呼吸管理が確立してきたため、この療法を選ぶ方が増えているそうです。

5.鼎談

 ここから宮野さんが加わり、3人で鼎談が始まりました。話で中心となったのはNPPV療法の話でした。

 世間の呼吸器のイメージは良いものではなく、呼吸が出来ない事で多くの制約が掛かります。どうしてもマイナスのイメージがつきまといます。「〇〇してはいけない」、「そんな事をさせて大丈夫なの?」など。宮野さんも当初はマイナスのイメージで捉えていたそうです。私と出会ってからは、呼吸器=メガネ感覚になってきたそうです。私たちは決して気管切開を否定しているのではありません。気管切開している人は医療的なケアがより多くなる為、NPPV療法と違ってリスクが多いのではないかと考えています。「NPPV療法は世界では主流なのですか?」との質問に対し、先生は「主流ではありません。気管切開のほうが多いです。でもNPPV療法は凄く古くから行われています。」と仰っていました。

 先生はカナダのリハビリテーション病院で脊髄損傷者の呼吸管理やNPPV療法を学ばれたそうです。アメリカのジョン・R・バック先生がNPPV療法についての文献を書かれたのが1990年なので約30年近く前、実際はそれよりも前からやっていたやり方だそうです。アジア、ヨーロッパ、アメリカ、カナダといった色んな国の医師が取り入れている療法です。日本では気管切開での呼吸器管理が主流で、選択肢を増やすためにもこんな方法もあるというのを拡げていかないといけないと話されていました。

 先生は、カナダでNPPV療法を学ばれてから今に至るまでの経緯もお話してくださいました。医師になって2年目に初めて呼吸器の患者さん受け持たれたそうです。その患者さんは気管切開で通常の呼吸器を使っていたようです。年齢は60代後半で、気管切開により、肺炎、嚥下機能障害等本当に色んなトラブルがあったそうです。その方を看取った後に、小学校2年生の時に怪我をして呼吸器になった方を受け持たれたのですが、もう同じトラブルは起こしたくないという思いがあったそうです。最初はカフ無しカテーテルの呼吸器を使用したところ、声を出すことができ、痰吸引の回数も少なくなったそうです。日本でNPPV療法を実践されている方は、皆バック先生から学んでおられるそうで、北海道の八雲病院に勤められておられる石川悠加先生もそのお一人だそうです。九州の脊損センターでもNPPV療法は受けられると聞きました。

 先生は2005年からNPPV療法を始められたのですが、たまたまその第1号となったのが私です。そして私以降に先生が携わった患者さんで、NPPV療法への移行可能な人は皆、移行されているそうです。

 長年気管切開をしている人でも、NPPV療法に移行出来るのか?率直に聞いてみました。少ないけれどもいるということでした。先生曰く、気管切開での呼吸器管理に慣れて生活している人が多いため、NPPV療法に切り替える際には、細心の注意が必要とのことです。一度開いたものを閉じるのは困難なこともある為、早い段階でNPPV療法にする方が良いとの事でした。

 気管切開すると声が出なくなるのか?との質問には、声が出ないという訳ではなく、声を出す方法が幾つかあるということでした。カフを萎ませる方法、特殊な器具を使ったりする事によって声が出せるそうです。気管切開を体験された方は理解出来ると思いますが、声が出せない、文字盤を使っても相手に伝わらないことは、常にイライラして辛い思いになります。私も「あいうえお」という言葉を発するだけでも、相当疲れていた事を思い出しました。普通に声を出すのが、大変だったというのが当時の記憶として残っています。NPPV療法だと自由に話せ、痰吸引がほぼ無くなった事で大変楽になりました。

 カフアシストについても関心が高かったです。頸損者は風邪を引くとすぐに重症化します。排痰するチカラが弱いためです。胸を押すという肺痰方法がありますが非常に苦しいのです。医療保険ではカフアシストは在宅で人工呼吸器を使っている神経筋疾患等の患者しか使えないという条件がある為、病院でカフアシストを置いているところは少ないです。睡眠時無呼吸症候群と診断された方も使えるのか?という問いには、一部では呼吸器と見なされる場合があり使用が可能だということでした。

 アンビューバッグという緊急時に手動で送気し人工的に換気を行う器具の話も出ました。実際どんな感じで使用するのか、実演しました。災害等で呼吸器が止まっても、呼吸が一時的に確保できます。私は外出時には必ず携帯しています。私の呼吸器は一分間に12回空気を送り出す設定になっています。呼吸のタイミングに合わせて押しますが、個人差があります。10秒に一回程度。酸素を早く送って欲しい人であれば、5秒に一回という感覚です。今まで幸いな事に呼吸器が止まってしまうトラブルに見舞われたことはありませんが、万が一呼吸器が止まればアンビューバッグを押してもらわなければいけません。緊急時の対策として必要な行為なのです。医療行為ではないかという議論になりそうですが、自発呼吸が困難な私達には絶対的に必要な行為なのです。

 私の電動車椅子にはモーターから電源が取れる様に、コンセントを繋げる工夫をしています。外出時は勿論、災害時であってもいつでも電源を確保する為に色々な工夫をしています。対策は必要だと常に思い、これからの生活にも取り組みたいと思います。

6.最後に

 今回のシンポジウムを開催したことは大変価値があったと思います。会員をはじめ、支援者、協賛頂いた企業の皆様、全ての方々が人工呼吸器を使用することが特別ではないということがご理解いただけたと思います。ただし、社会的にはまだ人工呼吸器はマイナスのイメージに捉えられることが多いです。できる限りこのイメージを変える活動を続けていきたいと思います。ご参加いただきました皆様ありがとうございました。

人工呼吸器を使用して自由に生きるために

SSKA頸損 No.129

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